蟹鍋


「一年分の蟹が食べたいなぁ」というお得意様のリクエストにお答えして、活せいこ蟹と活ズワイ蟹の入荷を待って蟹料理です。


せいこ蟹も活かしものですので、身はしっとり子はたっぷり。こういう小さな蟹をお客様にほぐしていただくのは申し訳ないので、六杯分のせいこ蟹の身を取って殻に詰めました。


ズワイ蟹は足の根元はしゃぶしゃぶに。胴体とはさみはチリ鍋に。


これだけ鮮度がいいと、蟹は下茹でする時点で鍋用のスープを取るように丁寧にじっくりと仕上げます。たっぷりの昆布で昆布出汁をとり、蟹本体をアクをすくいながら茹でていき、茹で汁と言っても一滴も無駄にしません。ここできれいな蟹と昆布の出汁がとれると、チリ鍋にポン酢がなくてもほんの少々の塩を入れるだけで鍋が成立します。


普通、日本料理では蟹をゆでる汁は捨ててしまいますが、茹で汁もすべて鍋出汁として使えるように凝縮させるのです。こういう出汁をとって凝縮させる手法はフレンチに教えられました。


しゃぶしゃぶ〜蟹ちり鍋、つきっきりで鍋奉行をさせていただいて出来上がった出汁は、蟹のうまみと野菜のうまみがすべて集まった特別な味になっています。さらに味を調整して出来上がる雑炊、極め付です。つまり、蟹と野菜を鍋の中から食べるだけでなく、蟹を茹でるところから始まってすべての食材の旨みを一つの鍋の中で一体にして、そこから出た出し汁が最良の状態で凝縮した味わいになって食べつくすように仕上げることが大切です。それらの一部始終は板前の技術でなされなければなりません。


ちょっとしたことのように見えますが、鍋も出汁の凝縮を重視していくと別のシロモンが出来上がるのです。