お涙ちょうだいのホームラン王


白血病はお涙ちょうだい映画のホームラン王です。


この数年だけでも何本の癌・白血病で涙を誘うポンニチ映画が公開されたのでしょう。愛する人を失うことをお題目にして、安易に涙と感動と観客動員数を狙う映画は大っ嫌いです。


ハリウッド映画「私の中のあなた」は、典型的な子供を白血病で失う映画、チェックするまでもなくスルーしてしかるべきだと思っていたのに、この二〜三カ月ほど全く劇場に足を運びたい映画がなくて映画評のサイトを眺めていると、これがやけに評価が高いのです。各評論家が高得点。


んじゃ、騙されたと思ってと週末に一ヵ月半ぶりに映画館に出かけました。


結果は・・・死の悲しみで涙を誘うような陳腐な表現は一切ありませんでした。実際涙を流すよりは心の深いところで、死を受け入れる若者の姿勢、兄弟の愛情、両親の献身にうたれ温かく満たされるような感動を味わいました。


病におかされたわが子を救うために、ドナーにぴったりの子供を遺伝子操作で新たにもうける。そしてドナーとなる小さな妹が弁護士を雇ってそれを拒否する。それだけをとらえるといかにもアメリカらしい社会問題、家族問題に取り組んだ映画のように思えるのですが、実際にはそれらのファクターはあくまで物語に奥行きを与える伏線の一つにしかなっていません。


俳優陣は全員が上出来です。全員が脚本と原作を読み切っているように見えます。中でもアビゲイル・ブレスリン。「リトル・ミス・サンシャイン」「幸せのレシピ」「幸せの1ページ」で達者子役であったアビゲイルですが、彼女はこの映画でほほ笑みだけで美しさの核を成立させるような大女優のたたずまいを見せています。大げさかもしれませんが、すでにオードリー・ヘップバーンに近づいているといってもいいかもしれません。


日本のお涙頂戴映画製作者は全員真摯な態度でこういう映画を見るべきです。私たちはこういう映画を望んでいるのです。泣くことだけでカタルシスを得るようなお粗末な映画はもういりません。