アプローズ


昨日お話をしたアカデミー賞。大勢の前で喝采を浴びるという機会は一般人にはなかなかありません。ましてやスタンディング・オベイションとなれば、日本で個人が得られることはほぼ無理。


以前にもお話をしたことがありますが、有難いことに、私、スタンディング・オベイション、経験があります。(この後は自慢話っぽいので気にくわない方は読み進まないでね)


大学時代に所属していたビックバンドでアメリカ西海岸演奏旅行をしたときのこと。それ自体がアマチュア・ミュージシャンとしては破格に美味しい経験であったわけですが、各地での演奏は信じられないことにスタンディング・オベイションの連続。


きっと極東からやってきたわけのわからない猿たちのjazzの物まね・・・と思ったら案外うまいじゃん、くらいの拍手であったのかもしれませんが、日本ではそれなりの評価をいただいていたバンドでもスタンディング・オベイションの経験は皆無であった私達には驚きでした。


「お世辞なんじゃぁないの?」
と聞いてみると
アメリカ人は立ちたがるほうだけど下手くそならブーイングだよ」
と。


いい気になっていた私達に止めを刺した(?)のは、最終演奏であった「リノ・ジャズフェスティバル」でのことでした。


日本からのゲストは私達ともう一つの大学バンド。先に演奏した某バンドにもそれなりの喝采があったのですが、私達の一曲目”EVERYTHING COMING UP ROSES”が終わると2000人くらいの観客が総立ちのスタンディング・オベイション。「うおぉぉ」という歓声と拍手が波のようにおしよせました。隣に座っていたピアニストと思わず顔を見合わせ「なんだこれ!すっごいねぇ」と。この歓声は4曲の演奏のそれぞれすべてに与えられました。ステージを降りるときには、舞台袖にいたボビー・シュー(秋吉敏子バンドの名トランペッター)が「お前らやるじゃん」とでもいうように笑顔と拍手で迎えてくれたのも忘れられません。


「ああ、このまま死んでしまってもいいかも」
「この思い出だけで後の人生生きていける」
と、真剣に思うような私達へのアプローズに感動し、このステージが学生最後の演奏であることが誇らしく思えたのです。


人生最上の喝采が私個人に与えられたものではないことは充分に承知していましたから、その道でご飯を食べていこうと思わないで、お客様の「美味しかったよぉ」の小さな小さな喝采を求めたことが私には大正解でした。


芸能人やミュージシャンが辞められないのはあのステージの喝采故なんでしょうねぇ。