「映画」 「母べえ」


映画は見る前の事前調査を忘れません。


というより、一年にそれほどたくさんの映画を観る時間もないですし、観たい映画がこの地で上映されませんので、いきおい、観るべき映画は選ばなければなりません。まっ、本も音楽も同様の作業を知らない間にやっているわけで、発表されたものをすべて観る読む聴くという作家の作品はごく少数です。


昨年公開された山田洋二監督「母べえ」は迷いつつ観るのを止めた映画の一つでした。普段は敬遠しがちな日本映画ながら、藤沢周平作品三部作で勢いのある山田監督ですから公開前には見る気満々であったのですが、見る映画評見る映画評、皆酷評です。


曰く
「いくらなんでも還暦過ぎの吉永小百合が幼い子供の母親は無理」
曰く
反戦思考が強すぎて山田作品のよさが出ていない」


予告編もお涙頂戴っぽいのがよくなかったかもしれません。


で、
先日wowwowで放映した「母べえ」を録画後観てみました。


しまったぁぁ。映画館で観ておけばよかった。


ちゃんといい映画なんです。吉永さんの実年齢を云々することも、反戦思考を毛嫌いすることも私には全く理解できません。


この映画の最大の見所は吉永さんを初めとした役者陣の圧倒的な演技です。役者全員が映画の行方を理解し台本を読み込んで微細な表情まで見事に演じています。その演技力の前では還暦過ぎの役者が三十代を演じていようが私には全く違和感は感じられません。世界一美しい60代に失礼ではないか・・・とさえ思ってしまうのです。


さらにこの映画の主題が反戦ではないことはあまりにも明らかです。主題は山田監督の永遠の主題である家族です。


もちろん底辺には反戦的な志向はあるのですが、それを声高に語っているとは思えません。多くの時間を費やされる太平洋戦争開戦前夜が暗い時代であったことは語られますが、それでもその時代はタダ暗いだけではなかったと表し、特高警察でさえ、警察官個人が悪人であるかのようなステレオタイプな描き方もしていません。時代を的確表現し、肩を寄せ合うようにして当時を生き抜いた家族模様を描いている映画なのです。反戦映画でもお涙頂戴映画でもないと私は確信します。


あえて言うなら、大人気の「おくりびと」よりもずっと好きです。「おくりびと」を過大評価するよりも「母べえ」を適正に評価すべきです。


まっ、映画館で見過ごしてしまったとはいえ、自宅でもちゃんと観ておいてよかったと思う映画でした。