既製品率


店の一般営業も今日でおしまい。お節料理の仕込みは佳境に入りつつあります。


気にしても仕方のないことなのに、デパートやチラシに入ってくる他店舗のお節料理の献立が気になって品物ひとつひとつに目を凝らします。当然のことながらチラシやデパート販売ができるくらいの大規模なお宅なわけですから、作られる数量はきっと私ン処の数倍数十倍のはず。これも当然のことながらお重箱に入る品物の既製品率も高くなります。大規模で営業利益を上げるためには仕方のないこと、とあきらめるのか嘆くのか。きっと現場の職人さんは上から大変な数をおおせつかり、手仕事をしたくても原価的にも人件費的にも無理ということになるのでしょうね。大変です。


お節料理の時期は一部の料理店にとってはかきいれ時ですから、そこを上手く乗り越えられる才覚をもった店(企業)は大きな利益を生めるのです。


一般の方はご存じないことかもしれませんが、10-11月くらいになると食材屋さんから届くお節料理のパンフレットは電話帳ほどの厚みのあるスゴ物で、電話一本ファックス一枚の注文で、お節料理の中身はすべてこのパンフレットの品物で整えることも可能なのです。私たちがお節料理のパンフレットを見ればその店の既製品率は一目瞭然なのです。


とはいっても、自分で作るよりも既製品のほうが美味しい・・・というレベルの職人さんだってたくさんいることも事実で、一年に一回しかやらないお節仕事を過不足なくこなすためにも既製品は必需・・・というのも悲しい現実でもあります。私ン処など身欠き鰊を日高昆布で巻いてコトコト焚いたり、丹波産の黒豆やら田作りを地道に作ったり、栗きんとんを練り上げたり、玉子を裏ごしして餡子を芯に巻く二色玉子・・・なんて仕事は何十年か後には「職人の自己満足」になってしまうかもしれません。「お節料理は仕入れた箱のパックを開けて包丁で切って詰めるもの」と考える職人が世の中にはびこる時代がやってきても不思議ではまったくありません。


私たちが子供の時代にはお節料理は母から子へ受け継がれるお家で作るもので、料理屋のお節料理は特別な存在でした。今はお節料理はデパートで買うもの、大手のホテルで頼むもの。そうやって大量に作られ消費されるものに職人の手仕事がなくなっているのは残念ながら現実です。


まっ、私自身は祖父、父から受け継いできたもの、自分で作り上げたものを愚直にこなしていくことだけしかできないわけですが。