名演その30〜ジョン・コルトレーン

clementia2008-11-01



コルトレーンが生きている間にジャズを聴き始めた、つまりわずかですがコルトレーンと人生がかぶったことがジャズファンとしての小さな自慢です。


コルトレーンはとんでもなく凄い」「神に近づいたコルトレーンが死んじゃった」熱気を帯びたその時代は、今では信じられないほど時代と若者にジャズが大きな影響を与えていました。インテリがマルクスを語るのと同じレベルでコルトレーンも語れなければ片手落ちであるような時代を今の若者に説明しようと思っても無理かもしれません。1960年代はフリージャズに象徴されるように、実際には理解できないものをわかっているような顔をするのがかっこいい時代でした。晩年のコルトレーンもコードプログレッションもモード奏法も知らない私のような中学生には訳がわからない音楽でしたが、それに触れているだけで大人になったような気分にしてくれました。当時の大人だって理解できなかったはずなのですが。嵐のようなフリージャズをいっぱい浴びて30年もすると、あれほど刺激的で過激だった音楽もとてもわかりやすい音楽に聞こえるのが不思議です。つまり当時不可解のめちゃくちゃをやっていたと思ったジャズマンの演奏は実はものすごくちゃんとしていたのかもしれません。


1960年代も半ばくらいから難しくなっていくコルトレーンとは対照的に、どんな人が聴いても心地よい憂いに満ちたバラードを演奏しているのが今回紹介する「バラード」です。


ジャズの歴史に残るカルテットをマッコイ・タイナー エルビン・ジョーンズ ジミー・ギャリソンと作り上げたコルトレーンは激しくブロウを繰り返し、一度ソロをとると30分もマウスピースをはずさない様な気迫に満ちた演奏を繰り広げる一方で、この「バラード」やエリントン、ジョニー・ハートマンとの競演でナイーブで内省的な静かな演奏を残しています。


「ジャズ聴いてみたいんだけど何から?」と聞かれたときに選ぶ10枚のアルバムの中に絶対に入るであろう「バラード」はジャズファンだけでなくあらゆる音楽ファンに40年間のときを超えて愛され続けています。


音楽ファンだけでなく感受性の豊かなすべての方にお奨め。