海胆(うに)の味


同業者の料理屋さんに聞いたお話です。


彼の息子さんは小学生。ある日の夕食時のこと「お父さん、学校で皆が”海胆って不味いよなぁ”っていうんだよね。あんな美味しいのに」


聞けば、同級生のほとんどは回転寿司の海胆しか食べた経験がないようなのです。かといって、彼も小学生の息子をつれて「回らない」カウンターにしかすわらないか?といえば、ほとんどないそうですが、仕事柄ちゃんとした海胆を原価で手に入れ、自宅で手巻き寿司にしてたべることが多いのだそうです。幸いと言うべきか、彼の家族は回転寿司の暖簾をくぐったことは一度もないといいます。比べる基準がありませんから、小学生の息子さんは最上の海胆しか知らずに「海胆は美味しいもの」という刷り込みができているわけで、不味い海胆の経験がないのですね。


スノッブに自慢をするわけでなく、そういう家庭に育ったゆえの経験なのです。


昔を思い起こすと、今ほど食材に恵まれた時代はない反面、これほどまがい物の横行もはなはだしい時代ないともいえます。


子供たちは最初に出会う料理で好き嫌いが決定しまうことがよくあります。考えてみると私も鯵や鰯のフライが長い間食べられませんでした。学校給食ででてきた冷めた鯵鰯の不味さがトラウマのように心の中に残っていたのです。成人してから、とある定食屋さんで先輩に奨められたアジフライに感激しなければ、きっと今でも食べられなかったかもしれないのですね。大人も子供も好き嫌いって案外最初の出会いが大きく作用するのかもしれませんね。