地産地消


世の中では地産地消の掛け声がますます高くなってきています。



私がこの仕事についた30年前には、掛け声など関係なく地産地消しかありませんでした。ジャガイモなど大量生産で日持ちのする野菜くらいは全国から集まってくることはあっても、○○産を意識して使うような時代ではありませんでした。宅急便などというものはまだ影も形もなく、「流通革命」という言葉はマーケッティングの講義ではよくお題目になっていても、現在のような本当に革命的な流通の激変が訪れるとは思ってもいませんでした。


そういう時代には情報も少なくて、どの地方でどんな品物が生産されているかも知らず、たとえ情報が入っても個別に送ってもらうとなったら輸送コストのことを考えるととても店で使えるものではありませんでした。たとえ○○という食材が××地方で作られているとわかっても、生産者を探し出し手に入れるまでの算段を整えるのは個人ではほとんど不可能でした。


流通革命と情報革命によって各地の食材の情報と入手が劇的に進み、保存の技術も進んでより安価で大量な食材が全国に渡って流通する時代に入ったのはたぶんほんの十年ほど前から。地産地消の掛け声は、流通革命によるワールドワイドな食材の流通によって国内の農業水産業衰退の危機意識から起きた運動で、地元のものしか使えなかった昔では起きるはずもないお話です。


私の店でももちろん地元の食材、地元の生産者とのコミュニケーションを一番大切にしてはいるのですが、「地元でなければならない」とは微塵も思っていません。日本中の食材が手に入る職人にとっては夢のような時代に、「地元しか使わない」はありえません。


「なんで地元の食材を使わない」という前に、生産者の側も地元が世界に誇れる食材を作り出す努力をしていただきたいと思うのです。農家さんの個々の意識の差はとても大きいのが実情です。農協が奨める作物さえ作っていればとりあえず売れますから、自ら世界の様々な産物に興味を持つまで至っていない方もたくさんいます。漁協のあり方も消費者の目線に立つようになるにはまだ時間がかかりそうですし、漁の技術も案外閉鎖的で魚に対する意識の差は確かにあります。


10年前比べれば生産者の中には高い志を持つ方が圧倒的に増えています。そういう方々の情報も豊かに入るようになりました。消費する側だけでなく、生産者がよりよいものをと思う方がさらに増え、「みんなでいっしょ」という農協や漁協の姿勢から、自らの力で作り出したone&onlyな食材、安全で美味しい食材を作り出す努力が結実した時に私にとっての地産地消が成立します。