個人情報保護


料理屋は口が堅くなくては務まりません。


よくこの日記でもお客様のことを書くことがありますが、ほとんどの場合個人が特定できないようにフィクションをたくさん混ぜ込んでいます。もし、日記で自分の悪口を書かれたと思われた方がいたとしたら、それは間違いなくあなたではありません。そういうお話の場合には特に作り事を多くし、状況を変えて書いているのです。


もっと実利的には、今日どこの会社の方がどんなメンバーで来ているか、とか、AさんがBさんと○日に内緒の会合を開いていた、などというお話は200%世間にばれることがないようにするのが務めだと思っています。


それに加え、お得意様が何月何日にどんな料理とお酒を召し上がり、器には何を使っていたか、お客様の料理のお好みは何か、飲物の傾向はどんな風かなどという情報は、個人ごとに毎回データとして残してありますので、予約があった時点ですべてをチェックすることは怠りません。お客様にとっては「自分のことをわかってもらっている」という安心感は料理屋への大きな信頼に繋がります。


ところが近頃、特に大手の会社の接待などの場合によくあるのですが、どなたを正客として持て成すのかを教えてくださらない方が目立ち始めました。


「どちら様とお越しでいらっしゃいますか?よろしければお教え願えればご予算的にも内容的にもお得意様であれば配慮できますが」と申し上げても
「先方から許可をもらっていませんから教えられません」とおっしゃるのです。


古い頭の私にとっては「ええ?先方の許可?」と信じられない思いです。「(当日来店すればどなたかわかるのに、何で秘密?)(それよりも接待を成功させるには情報があったほうが絶対いいのに・・・)」と心の中でつぶやくのです。


若い方に多いこの傾向に「接待の何たるかをわかっとらん」と忸怩(じくじ)たる思いでやるせなかったのです。いえ、もしかすると「あの料理屋では情報がバレバレである」という噂でも流れているのか?という大きな不安まで起きてきました。


ところが冷静に考えてみると、これってきっと大きな会社の個人情報保護のためのマニュアルなのですね。自己防衛のためのマニュアルがなければ大きな会社を制御することが難しくなります。法律にのっとって仕事をしなくてはならないということなんでしょう。


料理屋は大昔から個人情報の保護なんぞ身についた当たり前の素養であって、そこからどれだけ臨機応変の機微を働かせることができるかで料理屋の格も決まるというものなのに、杓子定規の法律で決めてしまうほうが大きな会社は楽珍なんでしょうね。


「おもてなし」よりも「法律」 料理屋は采配の取りようもない世知辛い世の中になってきました。法律って本来真っ当なことができない人々を制御するためにあるはずなのに、真っ当なことをしようとする人間の足かせになってる・・・って、これ絶対変です。