名演その21〜スタンダーズ

clementia2007-06-16



ピアノ・トリオはジャズの基本です。


ビーバップ誕生以来様々な名演奏がピアノ・トリオで残されてきました。アート・テイタム、バド・パウウェル、ビル・エバンスウィントン・ケリーオスカー・ピーターソンソニー・クラーク・・・・・1960年代まででもあげただしたらキリがないほどの名演奏、名トリオが華やかな演奏を繰り広げてきたのです。


とはいえ、とかくピアノ・トリオにありがちなのは主役ピアノ・・・ベース、ドラムス脇役という形式でした。1960年代のビル・エバンス・トリオの登場で初めてピアノとベースが対等に渡りあうピアノトリオが現れたとはいえ、ドラムスも含めて三人が対等に演奏するピアノ・トリオは、チック・コリア「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス」(ミロスラブ・ヴィトス〜ロイ・ヘインズ)の録音で始めて実現したといっていいでしょう。その後もグレート・ジャズ・トリオ(ハンク・ジョンズ〜ロン・カーター〜アンソニー・ウィリアムス)の企画などがあったとはいえ、1983年のキース・ジャレット スタンダーズ・トリオは決定的な強力ピアノトリオの出現でした。


1970年代のキース・ジャレットの活躍は、自己のカルテット、ピアノソロを中心にあくまでオリジナル曲を思索的に突き詰めていくものでしたから、1983年の”STANDARS Vol.1”においてスタンダードナンバーだけでアルバムを発表した時の驚きは相当なものでした。しかもメンバーは、名手ゲーリー・ピーコック(ベース)とジャック・ディジョネット(ドラムス) レコード盤に針を落としたときのドキドキ感は今でも思い出せるほどです。


なんというスウィング感、ドライブ感、緊張感、高度なテクニックの裏づけがあるのに軽やかに聞こえてしまう洗礼。ピアノ、ベース、ドラムスの三者が対等に語り合うように繰り広げる音楽は、ピアノ・トリオのあるべき姿を高らかに歌い上げているように思えました。


とはいえ、これだけのビック・ネイムがそろってスタンダードを演奏することなどそう何度もはないだろう・・・と思うのが普通のこと。一回ぽっきりの企画だとしても充分納得するジャズファン大満足の演奏であったのです。


ところが、このユニットはキースの病気で空白があったとはいえ、それから20数年、十数枚のアルバムを発表するほど長く続いているのです。メンバーが不動のピアノ・トリオがこれほど長く維持された例は知りません。しかもこのメンバーです。一般的に考えればスタンダードだけを演奏して十数枚のアルバムを創れば駄作が現れても当たり前であるのに、このトリオに超名盤はあっても駄作はありません。私は映像も含めて手に入るものはすべてずっと聴き続けてきて、ジャズファンであることの悦びをたっぷりと味わいつづけることができました。喩えるなら古今亭志ん朝さんの古典を変わらず聞き続けているみたいな感じ。


彼らのアルバムは十数枚すべてひっくるめてジャズの歴史に残るものです。紹介する”Standards Vol.1”その記念すべき第一作なのです。