トリオのドラム


ジャズの醍醐味はピアノトリオにあると言われたりします。ピアノとベース、ドラムス、少ない人数である分演奏は研ぎ澄まされ、お互いのインタープレーの醍醐味も綿密に味わえるわけです。


試しに、どんなアルバムでもいいですから、ピアノトリオのCDを引っ張り出して、三人がどんな音を出しているのかを同時に聞き分けてみてください。たった三人でも至難の技です。聞けても二人分の音が聞き分けれらる位のはず、耳の悪い私だけかもしれませんが。



今毎日聞いているピアノトリオのアルバムがあります。「チェンジング・パートナーズ」 ピアニストではなくて、ドラマーであるハーヴィー・メイソンのリーダー・アルバムです。(同じシリーズの二枚目) ちょっと変わっているのはドラムスのメイソン以外のピアニストとベーシストは曲ごとに変わっていることです。普通ピアニストがころころ変わるオムニバスのようなアルバムに名盤がありようはずがないのですが、このアルバムにはハーヴィー・メイソンの気合やオーラが毎回変わるピアニストとベーシストを毎回奮い立たせているかのように、すべての曲の完成度が高いのです。


ハーヴィー・メイソンといえば、いわずと知れたフュージョンの名ドラマー。フォービートやピアノ・トリオのイメージのない人なのですが、今回の「チェンジング・パートナーズ」と前回「ウィズ・オール・マイ・ハート」を聴くと、このフュージョンの名人は60歳を前にして、「俺のホントにやりたかったのはこれなんだよね」とジャズ心をかきたてているように思えます。


アノトリオのドラムスがこれほど緻密で完成度の高い演奏を私は聴いたことがありません。これまで、何百回ピアノトリオの演奏を聴いてきたかわかりませんが、一部のすきもない構築力、それでいてリラックスしつつ高揚感を保ってすべての曲に挑むことはほとんど神業です。ドラムスのリーダーアルバムなのにドラムスが前面に出てくるソロはほとんどありません。それなのに耳は自然にドラムスの音に向いているのです。ハイハットのシャーーという音、トップシンバルのチーンという一音にもハーヴィーの熱い気持ちがこもっているように思えるのです。それに答えて、名だたるピアニスト、ベーシストも名演を繰り広げています。一曲が終わるごとに全神経を集中し終えてぐったりするほど密度の高い演奏ばかりです。



昨日お客様にご相伴した、マダム・ビーズのクロヴジョ1988は誰が飲んでもスムースで飲みやすく美味しく感じられるとはいうものの、本当の価値を理解するためにはたくさんのブルゴーニュワインの経験が必要なように、ハーヴィー・メイソンの「チェンジング・パートナーズ」も誰が聞いても気分よくスウィングするアルバムではあるものの、演奏に鳥肌が立つにはある程度のジャズの経験が必要かもしれません。しかし、両者ともその奥深さを覗けた幸せと言うのは例えようのないもので、ワイン・ラバーでよかった、ジャズ好きで幸せであったとしみじみ感じさせてくれるものであります。


すべてのかたにお奨め・・・ではありませんが、神がかり的な高みにある演奏を聞いていただきたいアルバムです。