食事編

皆さんが一番気になるのは食事のときの作法でしょう。フレンチやイタリアンでナイフ、フォークをどこに置くか、どちらから使うか、スープ皿はどちらに傾けるか、スプーンはどちら向けてすくうか、パンはいつ食べるか、バターはどんな風につけるか。


好きにすればいいのだと思います。要は同じフロアの人たちが不愉快でないということさえ守られていればいいのです。ナイフやフォークをたくさん並べたてるのは料理店側の都合です。気の効いた店ならその都度その皿にあったナイフ、フォークを持ってくるものですし、わからなければ聞けばよいのです。持ってきたものが使いにくければ使わなければいいのです。食べる人が心地よく食べられるように腐心するのがサービスの努めであることが基本です。食べ終わった皿にナイフフォークが並べて斜めに置いてなくても、気を利かせて「お済みでいらっしゃいますか」とそっと聞いて皿を下げるべきなのがサービスです。パンを一口の大きさにちぎらず食べてもその人が優雅であれば文句のいいようがありません。決められ事というのはそのほうが綺麗に見えること、そのほうがお互いにわかりやすいことからきめれれていることばかりです。



さて、日本料理ではどんなものか。最初に申し上げたように、小さいころに両親から躾られた箸の上げ下げができれば全く問題ありません。普通に食べればいいのだと思います。


専門分野ですので、どうしてもなにか気になることを・・・・と言われれば、普段気がつくことが一つ二つあります。「あつかう」所作ができると食べ方が美しく見えます。箸を持ち上げるにも、右手で持ってから左手を下から添え、右手を滑らすように定位置に持ってくるといい感じ。お椀の蓋も右手で開けたら左手で扱ってから右手で置く。などというのが自然に身につくとかなり姿がいいものです。


もう一つは器を持つことです。ご飯茶碗、汁椀はもちろんのこと、お刺身なども醤油皿を持って食べる、煮物や蒸し物など蓋物も小ぶりであれば持って食べるほうが綺麗です。日本料理のそれらの皿は持って食べるようにできているのです。


そう、考えてみると一般の方が格式がありそうな日本料理店で一番戸惑うのがお椀の時かもしれません。開けた蓋はどちらに置くのか、上を向けるのか下を向けるのか、食べ終わったら蓋はどのようにしておけばよいのか。  


まずお椀が目の前に置かれたら、先ほど言ったように右手で蓋を開け、左手であつかってから蓋の内側を上にして右側に右手で置きます。お椀本体を右手で持ち上げ左の手のひらの上に指をそろえて置き、親指は御椀の淵にそえます。右手で箸を持ち上げ、お椀を持った左手の中指と薬指の間で持たせ、右手を滑らすようにして箸を持ちやすい形に持ちます。こうしてお椀を食べるのですが、最初に柚子や木の芽のような香りを箸先でつまみ、口元に持ってきて汁をすすります。一口すすっては本体(メインになるもの)を食べ、もう一口。食べ終わったら、箸、お椀と置き、蓋は元のようにかぶせて置きます。書き出すととても面倒くさそうに見えますが、一連の動作は普通にいつものようにやれば流れるように食べられるのです。


こんな面倒くさいこといちいち見張られているのか?と思ったら、そんなことはありません。御椀の所作ができているかでお客様を品定めするようなことはありません。第一、板前が100人いたら、そんな所作が優雅にできるものなど1割にも満たないはずです。サービスだって似たようなもの、食べ方の厳しい訓練をしている店などそうあるものではありません。お客様は気にせずにゆったりと食べることが一番です。ただ理にかなった所作ができる人は見た目にもとても美しくのは間違いありません。


お客様が気にするほど、店の側は食べ方のマナーを気にしていないものです。ゆったりと他の客への気遣いを忘れずに食べることさえ守られていれば十分なのですね