音楽の楽しさ

音楽は本当に楽しいのか?


昨日話題にした映画「スィング・ガールズ」では女子高生達が音楽を本当に楽しんでいる姿を描いていると書きました。同じようにフルバンドをやっていた昔の自分を振り返ると、当時は上手くなることに必死で音楽を楽しむゆとりができるのにはかなり時間がかかりました。


たぶん、音楽のレッスンを経験した方はどなたもそうでしょうが、練習というのは大概楽しいものではありません。ましてや、昨日見た映画のように、ヘタクソでも楽しいなどもってのほか、常に上手くなることが大事で、技術が向上すること、上手に演奏できるようになることこそが至上命題だったのです。ヘタクソが楽しいわけはないと思っていました。


当時のスポーツと同じで、いい成績を残せる人こそが正しくて、成績の悪い奴はダメ人間だったのです。


学生時代のほとんどを音楽とともに過した私は、最後の最後で音楽するというのは楽しいものだということを手ごたえとして感じる経験ができました。機会に恵まれて、所属する学生バンドでアメリカ西海岸の演奏旅行を大学四年生最後の年にしました。二週間、各所でコンサートを開いて演奏して回ったのですが、どの会場でも聴衆の雰囲気が日本とはまるで違うのです。日本では観客は、ある意味、上手い演奏ができるかどうか品定めに来るようなムードがあって、演奏そのものを楽しもうという気持ちのほうが後退しています。アメリカではどこへ行ってもまず「楽しもう」の空気が充満していました。「どれ、見てやろう」などとは微塵も思わず「さあ楽しもう」とニコニコ聴いてくれるのです。こんな雰囲気をもらって演奏が楽しくないわけがありません。さらに楽しい演奏、いい演奏にはたじろいでしまうほどのスタンディング・オベーションが待っています。そうか、「音楽ってのは演奏するほうも聞くほうも楽しいもんなんだぁ」単純明快なことが、クラブ活動という自己鍛錬の場で、うまくなることばかり考えていた日本の環境では全く気づきませんでした。それを知ってしまえば音楽を演奏する楽しみはがらっと変わります。


これまでの人生で唯一誇ることができることと言えば、自己満足ではあるのですが、「最も幸せなアマチュア音楽を満喫できた経験」と言えます。


音楽を自分が楽しむことができること、「スィング・ガールズ」の世代は、私などやっと手に入れた思いの強い大切な経験を、あっというのに手にすることができるのです。なんと恵まれた環境、恵まれた感性か。