ウイントン・マルサリス
地方に文化が育たないとか、いいものは東京ばかりに集中してしまうなどと御託を述べる資格は私には全くありません。
ましてや、浜松は「音楽の街」などと言うけれど、「楽器製造の街」であっても「音楽を発信する街」では決してない・・・・などとも大きな声で言う資格はありません。
なにしろ、たまにいいコンサートがあっても仕事を理由に出かけていない、一応楽器を演奏をすることができても公の場に積極的に出ることをほぼ諦めている。
などなど
サイト上で音楽の好き嫌いを言っていることなど、年寄りの愚痴であって、コンサートへさえいけない人間が文化的貢献など程遠いお話です。
コンサートへはいつ出かけたでしょう。「魔笛」「ダン・タイ・ソンのショパン」「小山 実稚惠さんのコンサート」簡単に思い出せてしまいます・・・・・この数年ジャズ系のコンサートは全くご無沙汰です。
が、
諦めかけていた「ウイントン・マルサリス リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ」の浜松公演へ行くこができました。
以前にも書きましたが、ウイントン・マルサリス(現代最高のジャズ・トランペッターの一人)は日本で知られる前、彼が19歳の時の演奏をニューヨークで聞いてぶっ飛んだ、思い出の深いミュージシャンです。
今回の来日公演はそのウイントンがディレクターを務めるリンカーン・センターのオーケストラです。
演奏されたすべての曲がオリジナルで、いわゆるフルバンドにありがちなスタンダードナンバーはありません。
よく練られた複雑な曲を、若手を中心にしたメンバーは軽々とこなし、アンサンブルの微妙な陰影は、昔のダイナミックなサウンドが身上のフルバンドジャズと比べると、ほんとんど現代音楽の範疇に入るのではないか思うほどです。
こういう計算され尽くした緻密な音楽は、ウイントンのトランペットソロそのもののようです。ウイントンのソロも勢いで押し通すようなやっつけではなくて、長いソロを吹いても一音もあいまいな音がない完璧な構成力のもとで作り上げられています。もしかするとすべて前日までに譜面を書いて作曲してきたのではないかと疑りたくなるほどのアドリブソロを吹き上げるのです。
現代音楽風と書きましたが、ウイントンはコンサートの最初の曲でピアノトリオだけを使って、ブルースを実にクールに歌い上げています。吹きながら客席に降り立ち、彼が一時期傾倒したニューオリンズ・ジャズのような雰囲気で一気に聴衆の心つかんでしました。
その後の組み立ては、スウィンギーなリズムやワルツも含めて極めて構成的でした。そして最後のアンコールではリズムセクションを除く全員が、再び客席に降り立って「Cジャム ブルース」(アンコールだけが唯一のスタンダードです)ミュージシャンが聴衆とふれあい歓声が上がります。
最初と最後できちんと「つかみ」をとるところなども含めて、一曲づつだけでなくコンサート全体をトータルにまとめあげていました。
反面、ジャズ、特にビックバンドの醍醐味というのは、ハッタリさえ容認してしまうようなスウィング感とドライブ感の「ノリ」でもあります。
全員が上手すぎて緻密過ぎるがゆえに、素晴らしいとは思ってもいわゆるノリノリの楽しさに少々欠ける部分があった・・・・といったら贅沢すぎる要望なのかもしれません。
個人的には「上手すぎるウイントン」は20年間ずっと大好きです。
それに久しぶりに味わった一級品の生のジャズは、満遍なく身体に染み渡りました。
幸せです。