小沢征爾音楽塾


先週ヴィデオに録画しておいた「小沢征爾音楽塾」のドキュメントを見ました。


指揮者小沢征爾が一ヶ月をかけ、オーディションを経て選ばれた10代後半から20代前半の若い演奏者(学生?)をトレーニングしながら、オペラを完成させるという内容で今年の演目はモーツアルトドン・ジョバンニ」です。


若者たちが世界的指揮者にはじめて接し、緊張の中で普段の練習では学べないことを体験していく様はそれだけで感動的でした。


勉強中の演奏家を目指す若者が、一ヶ月もの間小沢の指導を受けること自体稀有なこと、オペラを演奏する機会などそうはないはずです。さらにオペラで競演するソリストたちは世界的なプロフェッショナル。


リハーサルで初めてこのソリストたちの歌声を聞きながら演奏した時の、彼らの驚きの表情はこのドキュメントの白眉でした。「こんな凄い歌い手とオペラを創るのか」という衝撃が手にとるように見えました。この若者の反応こそが小沢氏が彼らに与えようとした最も大事なポイントなのでしょう。


コンサートで聴くプロフェッショナルの実力の凄さと、同じ舞台に立ったときに感じる時のそれは全く違うことを、分野は違っても私もほんのちょっとだけ知っています。それは背筋がゾゾゾとするほどの感動です。


この体験を経た若い演奏者たちは、音楽を創り上げる喜びをさらに広げたことは間違いありません。


日本のクラシック音楽界の現状を極めて冷静に判断している小沢氏にとっても若い演奏家にとっても、この音楽塾の試みは未来への大きな足がかりとなるはずです。


印象的だったのは、若い学生相手でも小沢氏は怒鳴ったりすかしたりすることなく、対等に音楽を創り上げていこうとしていたことです。最も小沢氏クラスの指揮者のそういう姿は見たことはないのですが、安っぽいドキュメントにありがちな「指導者=怒鳴る」「若者=涙する」「失敗の連続」「心を通じ合い成功する」(飲食店ドキュメントでよくある)うんざりするような姿は微塵もありませんでした。


音楽も料理も指導者の下で創造するというのは、ともに創り上げる喜びだけがあるということなのでしょうね、きっと。