フランス対カリフォルニア


たまたま掲示板でパリ対決のお話になりましたので、聞きかじりの知識ながらワイン好きには面白いこのフランスV.S.カリフォルニアの顛末をご紹介しましょう。


今ではカリフォルニアワインの美味しさ、レベルの高さは言うまでもないほど知れ渡っています。


事は1976年、今から26年前のことです。アメリカ建国二百周年の記念行事としてイギリス人ワイン商Steven Spurrierが、カリフォルニア・ワインが力をつけたと言うがどれほどのものかと「フランス・ワインV.S.カリフォルニア・ワイン」を企画したのでした。


赤ワインはカベルネ・ソービニオン、白ワインはシャルドネ。フランスワインはシャトー・ムートン、シャトー・オー・ブリオン、シャトー・オーゾンヌ、ムルソー・シャルム、ボーヌ・クロ・デ・ムーシュなどの銘酒ばかりで言い訳はできない品揃えでした。


審査員はドメーニュ・ロマネ・コンティのオーナー、三ツ星レストランタイユバン、グラン・ヴフーのオーナー、トゥール・ダルジャンのソムリエ、ワイン雑誌、レストラン誌の編集長などそうそうたるメンバーです。


フランス側にしてみると、こんな試合に名だたるフランス・ワインが負けるわけがないとお気楽気分で望んだようです。


「カリフォルニアなんぞ、香りをかいだだけでわかる」「この味の薄いのがアメリカワインだ」「差はやっぱり歴然としている」などと言いたいことを言って審査をしました。(なんとテーブルの下には録音用のテープまで置いてあったとか)


ところがブラインド・テイスティング(目隠し試飲)の採点表が集められ、結果の発表になると全員がうろたえました。


赤ワインの最高得点はスタックス・リープ・カスク23、白ワインはシャトー・モンテレナ。両方ともカリフォルニア・ワインでした。


それまでにもその手の決闘まがいは何度もありましたし、カリフォルニア・ワインが勝ったことも初めてではなかったのですが、対決したワインのラインアップと、審査員の顔ぶれが凄かったのです。フランスのマスコミはこの結果を無視したのですが、タイム誌の特派員がスクープとして取り上げあっという間に全世界に広まりました。


アメリカでは一夜のうちのスタックス・リープのワインが売り切れ、ワイナリーの電話は鳴りっぱなし、ほとんど車が通らないワイナリーの前の道が大渋滞を起こしたと言われます。


余談ですが、そのときの審査員だった、ロマネ・コンティの共同経営者ビレーヌ氏は、ブルゴーニュに帰って同じ共同経営者のルロワ氏(マダム・ビーズのお父さん)に罵倒されいたく傷ついたのだとか、これがもとで両家の関係にひびがはいり、後にマダム・ビーズが追放されるというお家騒動の伏線にもなったのだそうです。


26年前といえば、私など初めて行ったサンフランシスコで「ポール・マソン」のテーブルワインを飲んで、「こりゃ美味いなぁぁぁ」とびっくりしていた頃です。もちろんカスク23などという高級カリフォルニアワインが存在するなどとは知るべくもありませんでした。確かまだカリフォルニアワインに「シャブリ」などの名前が公然と使われていた時代だったと思います。


今では、高級カリフォルニアワインは味だけでなく、値段もフランスワインと遜色ない時代になり、ブティック・ワイナリーの稀少ワインは入手の難しさではフランスワイン以上になってしまっています。


26年、四半世紀という年月はさらに大きな変革を生むのに充分な月日です。