フラストレーション


「安い値段の料理で宴会をしたい」とか、「これからも使うのでまけて欲しい」などというご注文をお受けすることはまずありません。


が、
長いお付き合いをさせていただいているお得意様からの紹介で、どうしても断りきれないご予算おさえめの宴会をお受けせざるを得ませんでした。


当然普段使うような素材は使い切れません。でも、品数はある程度そろえなければいけません。


朝の仕入れの時点からフラストレーションがたまります。


「私を待っている一味鯛 2.5kg」が使えない。
久しぶりの天然縞鯵なのに「一番いい一本」を使えない。
赤むつではとても原価に収まらないので別の焼き物用の魚を探す。


いけません。


やっぱりこういうのは私の仕事ではありません。


技術がないのを素材の良さでカバーする・・・・といつも言っているのは半分は本当ですが、半分はウソです。


技術では素材はカバーできません。


素材を思い切らなければ美味しい一皿はありえません。素材の持ち味を表現するのが技術です。


普段からお客様に恵まれて、ある程度我儘な素材使いを許される予算で仕事ができる環境にいる(環境を作ることができた)私に、素材を落とさなければいけないという状況は、職人を辞めろというほどものでした。


決して不味いものを作ったつもりはないのですが、これではお酒のラインアップにもそぐいません。蔵元にも酒屋さんにも申し訳ないです。


やっぱり意地をはってでも今の値段を維持し、さらに高みを目指さなければいけないのです。


と、
やせ我慢をして料理を作っているのですが、料理に込める思いの1/10の労力で済む(力のある酒屋さんのおかげで)お酒だけを評価されるのにはさらにめげたりする板前です。


やっぱり技術がないってことじゃん。