ライブの実力
一昨日、「口パク」と題して大型ライブでの芸能人の情けなさを書いたばかりですが、事ジャズに関しては、ライブ、特に小さなジャズクラブで見られるミュージシャンの実力はCDで聞けるそれとは雲泥の差である事がよくあります。
「このミュージシャンはホントはこんなに凄い実力の持ち主であったか!」と慄然とさせられるのです。
悪く言えば、スタジオで録音された音には、きれいにまとめようとする力が働いて縦横無尽のアドリブプレイが発揮されないのかもしれません。
25年も前、サド・ジョーンズ〜メル・ルイスオーケストラというフルバンドが来日した事があります。
大のフルバンド好きの私としてはお金がある分だけ東京のコンサートへ行きたいと思ったのですが、お目当てのベーシスト、リチャード・デイヴィスがメンバーに入っていませんでした。
その代わりに当時まだ無名だったジョージ・ムラーツというベーシストがやってきていました。
来日公演は大満足だったものの、私にとっての極めつけはその来日の時に評論家悠雅彦さんが企画した事からその後再び来日した、件のジョージ・ムラーツを同バンドのピアニスト サー・ローランソ・ハナのデュオをピットインという小さなクラブで聞けたことでした。
ジャズの場合、メンバー構成が少なくなればなるほど、ミュージシャンの力量がもろに見えてきます。
ピットインでのハナ〜ムラーツデュオは度肝を抜かれるほどすごいものでした。
ローランド・ハナの素晴らしさは以前から知っていたのですが、ジョージ・ムラーツの豊かな才能はその場ではっきり認識できました。
ウッド・ベースにフレットが付いているのではないかと思うほどの正確な音程、ギターのように自在に早いパッセージを弾きこなすテクニック、和声の基礎がしっかりしたサポート。
日本人のジャズベースプレーヤーがそこかしこに座って彼の演奏に耳を傾けていました。
休憩時間にはベースとアンプの回りに集まって音の秘密を探ろうとばかりに覗いています。
この日のライブの感動はおそらく名作レコード20枚分くらいの厚みある物でした。
ジャズでのそういう経験は数限りなくあります。
少しでも、ジャズに興味がある方は一流プレーヤーの小さなクラブでのライブを聞くべきです。
のけぞって固まったまま動けないほどの感動があるかもしれません。