去りがたい

昼寝をしながら見ていたWOW WOWで、「ジョー・ブラックによろしく」をやっていました。


すでにロードショウの時に見ていて、女優のクレア・フォーラニの美しさが際だった、いい映画という印象だけが残っていました。


とはいっても、途中で睡魔に負けてしまうかと思っていたら、大間違い。


「近作個人的BEST 10」に入れなければいけない作品でした。3時間が全く苦痛でない。


TVで見る場合、ロードショウより印象が薄くなりがちなのに、この映画は私の心をさらにぐいぐい惹きつけました。


夫婦、家族、恋人への愛情を縦糸に、死神が現世に人間の姿を借りてお迎えに現れるという横糸、さらに会社経営の危機など巧みに織り込まれた脚本がスムースですばらしく、アンソニー・ホプキンスブラッド・ピットの丁寧な演技も場を得た気持ちのよいものです。


二度目ですので、ディーテイルにも目がいきます。


アンソニー・ホプキンスの衣装は、スーツの仕立てもよくて、シャツの袖もダブル、タイはR・ドレイク?エルメス?いずれにしてもいいものだけれど、おしゃれじゃなくて、仕事着として着ている感じがよく出ているし、娘役のクレア・フォラーニは仕事、フォーマル共にシンプルで立場と性格をしっかり象徴するような服。イブニングを着ても、宝石類は一つも着けなくても素敵です。


さらに舞台のニューヨークの邸宅(マンハッタンのペントハウス)と別荘(たぶんニュー・ポートあたり?)の造りや美術品も趣味が統一されていて、それだけ覗いていても楽しいほどです。邸宅、社長室、会議室に掛かっている絵は、皆ブラック??キュビズムには全く詳しくないので、よくわからないけれど、「ブラック」と「ジョー・ブラック」をかけているんでしょうか???(そんな陳腐なことしないか)


ロードショウでほれぼれしたクレア・フォラーニは、彼女そのものの美しさ以上に、監督マーティン・ブレストの女性を撮ることのうまさも多分にあるのでしょう。同じブレスト監督作品「セイント・オブ・ウーマン」で、盲目役のアル・パチーノとタンゴを踊って、キラキラ光っていたガブリエラ・アンウオーもブレスト監督に撮られて、魅力が三倍になっていたのに、「ニューヨークはバラ色」(だと思った)とか「LAX」のCMでは、ちょっときれいなちんちくりんな女の子です。この監督、ただの女好きではありません。クレア・フォラーニの演技は女性の恥じらいとか躊躇いが、その人の美しさをより引き立たせるのだと知らせています。(若いオネエちゃんよく聞いとけよ)


この映画で、一番気に入ったのが死神役ブラッド・ピットアンソニー・ホプキンスを死の世界へ連れていかんとするところ。


ホプキンスが運命と観念しつつ、愛する人たちのとの別れを思って「去りがたい」というシーンがジンワリさせます。


人生をめいっぱい駆け抜けて、成功をつかんだ人間は、「幸せな一生であった。楽しかった」といって死んでいくのが理想的だ、などと思っていたのですが、その満足感は自分だけのもの。愛する人々を思えば「去りがたい」という言葉には重みがあります。


私も「去りがたい」といえるような愛する人々に囲まれて、この世を去りたいものです。


その前に成功をつかめないか。