お預かりもの


地元繁華街からちょっと離れた場所に、この地の財界の主立った方々が集まるクラブがありました。


女性の色気を売るような店ではなく、ママの清楚な人柄に惹かれて集まるのは名士といわれる方々ばかりでありました。私なんぞ敷居をまたぐのもおこがましく感じるような場所です。


そんなママですから、体力の限界を感じたときに身辺を整理し、あっという間に老人ホームにひとりでお入りになって悠々自適の毎日を過ごしていらっしゃいます。


彼女が月に一回、お得意様だった方と食事とお酒を楽しみに店にご来店くださいます。


先日、「もう私が持っていてもしょうがないから、こちらで使ってくださいますか?」と持ってくられたのは十数点の短冊と色紙。


聞けば、代々表千家宗匠を務める堀内家の宗完宗匠の筆と小栗正氏の絵。


田舎町の料理屋には分不相応な品々ですが、「もう各お部屋に床の間があってお花と季節のお軸を飾っていらっしゃる日本料理店が見当たらなくなってしまいましたから、親方なら存分につかえるでしょ」と。


有り難い有り難い有り難い。


各品々もありがたいのですが、そのお心遣いが胸に染みます。


ママが若い頃、宗完宗匠のお茶事のお手伝いをずっと務められいただいたもの、小栗氏にも店に飾ればいい。。。といただいたものなのだそうです。


お客様や宗匠の気遣いをママが使いこなし、私に手渡された思いのこもった筆、大切に使わせていただきます。




店には同じようにお得意様からお預かりした(いただいたとは思っていません)品々が様々あります。


バカラの置物 琉球ガラス 輪島塗り お軸 煎茶茶碗などなど。


店を可愛がってくださる方々の証です。