親子の店


そういえば昔こんな店がありました。


もう四半世紀も前、当時休日になると浜名湖ディンギー(小型ヨット)に乗って遊ぶことが多かった私の目に、いつも気になっていた湖畔のカフェ?レストラン?らしきログハウスがありました。テラスにテーブルがあってお茶を飲んでいるカップルがよく見えたのです。


桟橋はなかったので海から横付することができず、ある日連れ合いといっしょに車で出かけてみました。


看板らしきものは見つからず、一般道からさらに農道のような細い道を探るようにして海岸沿いに入っていくと、ありました。海から見ていたログハウスが。


「こんなところまで宣伝もなしに客が入ってくるんだろうか?」


店内に入ると白髪の品のいいおばあさまが一人、厨房にはその息子さんらしい若い男性がちらっと見えました。


メニューにはパスタが数種類とコーヒー紅茶の類が。


注文後出てきたパスタは、四半世紀前のイタリアン事情からするとかなりレベルの高いセンスのいい一皿。食後に頼んだお茶には、ガラス棚に並べられた、これも当時まだ珍しかったジノリ、ヘレンド、ウェッジウッドの器が使われ、「よろしければテラスでお茶はお召し上がりになりますか?」というお勧め通り、テラスに出ると目の前はいつも遊んでいる海。


田舎町にこんな店があるんだぁ。。。と満足のひと時を過ごして駐車場に向かうと、テラスの下部に厨房でちらっと見えた息子さんらしき人が、思いつめたように海をじっと見つめていました。


重い表情に「ごちそうさま」の声をかけることもはばかられて店を後にしたのです。


帰りの車中「あれ、わけありの親子かなぁ。。。」あの息子さんらしき若者の表情だけで夫婦の妄想は自宅に着くまで膨らみました。


それ以降出かける機会がなかったあの店、今はどうなっているんでしょう。