少し愛して


日本人の権威好きはまさにミュシュラン狂想曲に見る思いです。


予約の電話に追われまくる星付の店もお得意様への対応がおろそかになって困り顔ではないでしょうか。メディアに取り上げられて一見さんに引っ掻き回される店のことはよく聴きます。地方局の某グルメ番組に登場されたお店のご主人でさえお話を聞くと、「一週間だけ客は押し寄せるよ。翌週は次に紹介された店に行くんじゃない?」と笑っておられました。


私たちのように料理を生業(なりわい)としている料理人は、最近はやりの「コンセプトもの」「プロデュースもの」のカッコイイ店のように、5年で元を取ってさっと引き上げるような仕事はしません。一生食べていくために地道に積み上げるような仕事をしているのです。あらゆる手で一気に話題を作り、連日満席を作り上げるよりは、長いお付き合いをさせていただけるようなお得意様を大切にしたいと思うのです。たぶんミュシュラン星の店の多くは自らの思いとは違うところで喧騒に巻き込まれてしまったと思われているのではないでしょうか。新しモノ好きが飛びつくミシュランさんには新しモノ好きのためのレストランを紹介していただいて、料理を生業としている真っ当な店はそっとしておいてして欲しいもの。


昔のウィスキーのCMにありましたね「少し愛して、ながぁぁく愛して」 ミュシュランが料理店を次々と食い散らかしていくような客を作るためのガイドブックになってしまうとしたら、日本人には必要ないシロモンなのかもしれませんね。一年にいっぺんでもいい、料理店はながぁぁく愛してくださるお客様が欲しいのです。