「お酒」 いい酒造りの迷信


どうしたら美味しいお酒ができるのか?よく素人の間で話題になるのは「米」「水」「酵母」「杜氏」「土地」の五つの要素です。「米どころだから美味しい」「水がいいから美味しい」「蔵付のいい酵母があるから美味しい」「熟練の杜氏がいるから美味しい」「寒冷な土地だから美味しい」

すべては正しいのですが、すべてはすでに迷信といってもいいほど今では違っている部分が増えています。日本酒の世界はこの20年くらいで大きく様変わりしているのです。



お客様にお酒をお出ししながら「新潟の○○です」と私。「新潟は米がいいからねぇ。こういういいお酒ができるんだぁ」とお客様。がしかし、今お出ししたお酒の酒米は「兵庫産特A地区の山田錦なんですよねぇ、新潟米じゃありません」とは口に出してはお客様の美しい幻想が壊れてしまいますから言いません。


また別のお酒で「福島の山奥の○○です」と私。「あの辺は水もいいんだろうねぇ。美味しいわけだ」とお客様。がしかし、「蔵元では水道水を使っているそうです」(まっ、水道水が美味しいのでしょうが)とはもちろん口に出しては言いません。


「古い歴史のある○○です」と私。「そういう蔵は梁にびっしり酵母がついて蔵付の酵母で美味しいお酒ができるんだよねぇ」 がしかし、今美味しいお酒を造っていらっしゃる蔵は概して整然として掃除が行き届いています。酵母は試験場のバイオで造られるのです。とは口に出しては言いません。


「岩手の○○です」と私。「南部杜氏の熟練がいるから美味しいんだよねぇ」 がしかし、このお酒を主になって造っているのは30代の若いご主人です。とは口に出しては言いません。


「静岡の○○です」と私。「静岡あたりの暖かいところで美味しいお酒ができるわけはない。寒造りだからこそ美味しいお酒ができるだよぉ」 がしかし、この蔵の温度管理は外気温度に左右されないほど行き届いているんですよねぇ。とは口に出してはいいません。



というわけで、今まで素人が迷信のように信じていた酒造りの様々な要素はしばらく前から大きな変革期をむかえています。このお話は軽めのシリーズでお話してみます。