マイナーを知れ
映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を観てきました。
素晴らしい映画です。
- Manchester by the Sea2016年|アメリカ|カラー|137分|画面比:1.85:1|映倫:G|MPAA: Rスタッフ脚本&監督:ケネス・ロナーガン製作:キンバリー・スチュワード、マット・デイモン、クリス・ムーア、ローレン・ベック、ケヴィン・J・ウォルシュ製作総指.. 続きを読む
- マンチェスター・バイ・ザ・シー www.manchesterbythesea.jp
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このアカデミー賞 主演男優賞 脚本賞の主要部門をダブル受賞した名作でも、田舎町では近隣三つあるシネコンのどこにもかからず、良作だけを扱う小劇場で上映されました。
この十年以上、シネコンでアカデミー賞受賞作品が上映されないのは普通のことになりました。
シネコンにかかるのはアイドル恋愛モノ 漫画原作モノ 不治の病お涙頂戴モノの日本映画。洋画はマーベル作品 マイケル・ベイ作品 なんて傾向が変わりません。
つまりお金を稼げる映画以外は見事に相手にされない傾向に拍車がかかっています。
実際「マンチェスター・バイ・ザ・シー」がアカデミー賞受賞作だとはいえ、小劇場に日曜日に集まっているのは40−50人な訳で、シネコンの良心にうったえても資本主義原理に立ち向かうのは無理であることが現実なのです。
話は変わります。(が、関連も少し)
前回の板前日記で 日本酒の紙パック市場の占有率は思った以上にすごいということを書きました。
日本酒の歴史を考えれば大手メーカーの役割は大きかったこと、実際の底力が凄いことなど、決して大手ブランドに批判的なことは書いてこなかったつもりでいました。
が、
実は紙パック酒の売れ筋を飲んだことがありませんでした。というか、大手のお酒を飲んだのはもう35年前のこと。知らなかったのです。
で
飲んでみました。
ひとつは最大手の一番の稼ぎ頭 「白鶴 まる」
もうひとつは「菊正宗 ピン」
驚いたのは菊正宗のピンは日本酒通の槍玉に挙げられる糖類 調味料の類いの添加はなく、米 米麹 醸造用アルコールだけで作られていることです。
精米歩合やアルコール添加の数値の記載はなく、本醸造と呼べる内容ではないのでしょうが、パック酒の実際を知る意味では大きな事柄です。
さらに味わいはというと、白鶴まるのほうはあくまで淡麗、酸が綺麗で飲み飽きしないタイプです。ぬる燗につけると少々感じた雑味も消え、食中に飽きずに飲み続けるお酒に仕上がっています。
菊正宗のピンは、アミノ酸度がより高く舌を引き締めてくれるような糀の香りとうま味があって、一般的にいわれる「辛口」というのはまさにこれ、というお酒です。
つまり2本ともちゃんと飲めるお酒なのです。
40年前にいやいや飲んだ燗酒とはまったくレベルが違います。しかも値段が恐ろしく安い。
あえてうがった見方をすれば、ブラインドで同レベルの価格帯の日本酒を並べれば、飲食店ランキングの投稿者が大好きなコスパの分野では「まる」などはぶっちぎりの一位になるでしょうし、辛口命の昭和系日本酒ファンは菊正宗ピンを一番にあげるのではないかと思うような味わいなのです。
少なくとも、「まる」が糖類 調味料を添加していることを味だけで見破れる素人はなかなかいないのではないかと思うほど上手にできているのです。
日常的に毎日心地よく酔うために日本酒がほしい消費者にとって、このコストと味のバランスは良くできていると言わざるをえません。
日本酒通はこれを聞いたら「なんたる暴言。プロがまがい物を認めるのか」と批判するでしょうが、日本酒を毎日飲む方の全員が「純米でなくてはならない」とか「糖類 調味料の入っている日本酒なんてゆるさん」と思っているわけではないのです。
私の周りにはナショナルブランド信奉者は皆無ですので、そのメンタリティーははっきりとはわかりませんが、毎日晩酌に飲むビールは発泡酒や第三のビールでも問題なしと思っている方がたくさんいるから売れているわけですし、ワインをポリフェノールのために飲んでいる方や、1000円前後のチリワインだって十分美味しい(たくさんいます)と思っている方がたくさんいる現実を踏まえれば、現在の大手紙パック酒の需要が料理酒だけではなく、台所に切らさずにおいてあって、レンジでチンして晩酌が日常的な方が一定数いることに何の疑問も感じないことが味を見ただけでわかりました。
つまり大手ナショナルブランドは庶民のニーズをしっかりとらえ、寄り添う値段と味を実現しているのだと思うのです。
だからこそ需要があり、事実売れているのです。
しかしながら、料理店の店主としてこの紙パック日本酒を使いたいかと問われれば、まっぴらごめんと言わざるを得ません。
料理店はハレの場所。ひとランクもふたランクも違うレベルのお酒を味わっていただく場所で、淡麗とか辛口だけがメインになる日本酒ではなくて、豊かな香り、味わいの奥行き、淡麗の後にある余韻、アミノ酸が行き渡った旨味の凝縮感 それらの豊かな個性が表れた極上でなければお客様にお出しできないのです。これらの個性までは残念ながら紙パック酒に全く感じませんでした。
翻って思いを巡らせてみました。
来店されるお客様、とくに50代以上の日本酒ファンの中に、「辛口ください」と言われて、店の中で一番淡麗であったり 逆に凝縮感があっても辛さを感じるお酒を出しても「甘い!こういうのじゃぁなくてもっと辛いの」という方がいます。かなりの確率で。
こういう「辛口辛口」を連呼する方の舌は、以前は新潟酒の淡麗に引き込まれてその舌ができあがっているのだと思っていたのですが、この辛口の舌は実はある時期からのナショナルブランドの辛口を飲み続けたことでできあがった舌なのではないかと、今回はっきり思ったのでした。事実、「辛口辛口」とおっしゃる方に八海山や〆張鶴をお出ししても8割の確率で「こういう甘いヤツじゃ、ダメ」と言われてきたのです。
こういう日本酒辛口ファンにはお米の旨味の凝縮感は舌に甘く感じるのでしょうね。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」がシネコンでかからないことを嘆く自称映画ファンと、大手ナショナルブランドが日本酒をだめにした。純米だけを作る蔵、吟醸大吟醸に意欲的な蔵だけを飲むべきと思う日本酒通ってある意味同じメンタリティなのではないかと思うのです。
同じ値段を出すなら国産軽自動車よりも中古の欧州車を選ぶ車ファン
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いいものを知ってしまい、その魅力にひきこまれて応援する分野を持つ方と、日常的に身の回りにあるモノはそれなりによければ十分と思う方。
各分野にどちらがマジョリティでどちらがマイノリティなのかは定かではありませんが、自分の好きなものがマジョリティであると信じ込みすぎない方がいいのではないか。。。なんて思ったりした紙パック酒試飲でした。